人魚姫

 やっぱり人間なんてろくでもない奴らなのかも知れない。

 でも最初に会った優しい男の人に、昔あたしを助けてくれた人間みたいな人もいる。

 希望を捨ててはいけない。

「それにしても人間の体って奇妙だなぁ」

 琉海はまじまじと鏡に映った自分の姿を観察する。

 特に下半身。

 人魚から人間になって1番驚いたのは、

 自分にできた生殖器だった。

 琉海は片足を開いて上げる。

「こんなところに貝がくっついてるんだもん」

 琉海は自分の体の匂いを嗅いでみる。

「生臭いだって失礼な」

 琉海は水のシャワーに飛び込んだ。

 塩分の含まれていない水はなんだか気が抜けた感じで締まりがない。

 はらりと何かが指先に触れた。

 気にせずに水を浴びていると、またはらり、はらりと何かが琉海の体をかすめる。

 足元を見ると排水口に虹色の鱗が溜まっている。

 琉海は驚いて自分の体を見ると白い肌に虹色の鱗が浮き上がってきている。

 すぐにシャワーの下から飛び出した。

 タオルで体を拭くと乾いた部分から鱗が消えていく。

 試しに片足を水の下に差し入れる。

 すると水に触れた部分に鱗が現れた。

「なんだ、完璧に人間になれたんじゃないわけ?それかこれが副作用?」

 小さな鱗で覆われた足をタオルで拭くとすぐに鱗は消えた。

「まあ、完全に人魚に戻ってしまうよりマシか。拭けばまた戻るみたいだし」

 琉海はかまわずまたシャワーに入ると石鹸を手にとって泡立てる。

 その泡が面白くて仕方ない。

 なんだか楽しい気分になってきた。

 そうだ、自分は人間界に来たのだ。

 せっかくなのだから1年間思いっきり楽しもう。

 お肉もたくさん食べないといけない。

 浴室のドアが激しく叩かれる。

「おい、いつまで入ってんだ。水がもったいないだろ」

 琉海は無視してシャワーを浴び続けた。

 水がもったいないなんて何を変なことを言っているんだ。

 水なら海にいっぱいあるじゃないか。

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