人魚姫

「おまえ頭おかしいけど、悪い奴じゃないな」

 大冴は白い歯を見せた。

 琉海の胸がチクリと痛む。

 大冴が初めて琉海に見せる笑顔だった。

 大冴のことを最低な男だと思っていたが、本当は恋人に優しい普通の男なのかも知れない。

「おまえさ、真面目に生きた方がいいよ 」

 大冴は急に真剣な顔をして言った。

「今は若くて綺麗だから男をたぶらかして生きていけるだろうけど、歳とってからどうすんだよ、親とか兄弟とかいるんだろ」

 いろいろと聞いてくる大冴に適当に答えているうちに、琉海は貧乏子だくさんの家に生まれた末娘でまともに教育も受けさせてもらえずに育ち、たくさんいる姉たちにいびられる毎日に耐えきれずに家を飛び出した家出少女ということになった。

「そっかぁ、おまえ苦労したんだな」

 大冴は同情の色を顔に浮かべた。

 ごめん、姉さんたち。

 琉海は心の中で謝る。

「俺が東京に戻るまでは別荘に置いてやるよ」

 大冴は立ち上がり、砂をはたくと家の方に向かって歩き出す。

 琉海もその跡を追う。

「ねぇ、大冴の友だちの未來は今どこにいんの?」

「さっき東京に帰った」

 ま、まじか。

 琉海はがっくりと肩を落とす。

 まぁ、大冴に引っ付いていればいづれもう1人の王子かも知れない未來にも会えるだろうが。

「ねぇ、大冴はいつまでこっちにいるつもり?」

 早く東京とやらに帰ろうよ。

「まだ決めてない」

 大冴はそれだけ短く答えた。




 家に戻ると白いままの床を見て大冴は文句を言ったが「明日はちゃんとやれよ」とだけ言うと浴室に入って行った。

 琉海がリビングでテレビを見ていると浴室から「冷めてー!」と叫び声が聞こえてくる。

 大冴がシャワーから出て自分の部屋に入って行くのを確認すると琉海はこっそり自分も水を浴びた。

 大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。

 体中鱗だらけになっているのを見られたら終わりだ。





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