人魚姫
大冴は毎日日課のように茶々丸を連れて散歩に出かけた。
小1時間で帰ってくることもあれば、ずっと帰ってこないこともあった。
出かけている間、琉海は1人でテレビを見て過ごした——テレビショッピングは絶対に禁止だった——自分のいない間ネットも使っていいと大冴は琉海にパソコンの使い方を教えた。
パソコンで見るインターネットの世界は琉海をテレビ以上に夢中にさせた。
「すごいこれ、ここには全てがある!」
琉海は『人魚』と検索をかけてみた。
『人魚:水中に生息すると考えられる伝説上の生き物』
するすると下にスクロールする。
「伝説、空想、物語かぁ」
今度は『人魚姫』と検索をかける。
琉海の前の姫、アンデルセンが書き残した話ばかりがずらりと出てくる。
「なんだ、全てと思ったけどそうでもないんだな。ちょっとがっかり」
それからしばらく琉海が肉の動画を見ていると大冴が帰ってきた。
両手にビニール袋を下げている。
「今日は俺が腕によりをかけて夕飯を作ってやる」
「え!まじ?」
琉海は喜んだ。
ずっと甘いお菓子しか食べていなかった。
「なに作んの?肉?」
琉海は茶々丸と一緒に大冴にまとわりつくようにしてキッチンについて行く。
「特大チョコレートケーキだ」
失望した琉海はリビングに戻ってテレビをつけた。
もし大冴が陸の王子だったらずっとこういう食事になるのかな?
それはいやだなぁ。
食事の趣味って大事だよなぁ。
『今日は芸能人オススメの焼肉屋ベスト10をご紹介』
この焼肉って気になるなぁ。
すっごい美味しそう。
1度でいいから食べてみたいなぁ。
太った芸人が網の上で焼ける肉に顔を近づけ鼻をひくつかせる。
『う〜ん、肉の焼けるいい匂いがします』
キッチンからチョコレートケーキの焼ける甘い匂いがしてきた。
焼きあがったチョコレートケーキは本当に特大でそして店に出して売れるほどの完成度だった。