人魚姫
おかし作り男子か、こいつは。
「どうだ、美味いだろ」
「うん、これ売れんじゃん」
気をよくした大冴はもっと食べろと琉海の皿に3切れ目のケーキを乗せた。
おぇ〜。もう食べられないよ。
「律も俺の作ったケーキをいつも美味しい美味しいって言って食べてくれた」
大冴がぼそりとつぶやいた。
琉海は皿の上で弄んでいたケーキを口に入れる。
「お前もたくさん食べてくれるから嬉しいよ。未來は全然甘いもん食べないからさ」
それはあたしと食事の趣味が合うかも知れないな。
少なくとも大冴よりは。
あたしは他に食べるもんがないから食べてるだけなんだけど。
それとなんか、ちょっとと言うか、だいぶ負い目があるからさ。
「また、新しい恋すればいいよ」
突然フォークが飛んだ。
「勝手なこと言うな」
今の今まで機嫌の良かった大冴が仁王立ちしすごい形相で琉海を睨んでいる。
「そんなにすぐ律のことが忘れられるか。お前に俺の気持ちのなにが分かる」
「なんだよ、なんだよ、あたしは慰めてやろうと思って言ったのに」
それに大冴が陸の王子だったら、あたしと恋に落ちる運命なんだから、すぐに忘れるって。
「俺は律以外の女は愛さない」
大冴はそのまま家を出て行った。
「まだケーキ残ってるよ」
琉海は手に持った皿を乱暴にテーブルの上に置いた。
「けっ、こんなに甘いもん食べられるかっつーの。俺は律以外の女は愛さない、だって。キザなセリフ、ドラマの見過ぎじゃないの」
琉海は下唇を突き出して大冴のマネをする。
もし大冴が陸の王子であたしを愛さなかったら、あたしは死ななくちゃいけないんだよな。
あ、大冴を殺せばいいんだった。
琉海はケーキの横に置かれたナイフを手に取る。
チョコレート味の生クリームがついた刃先。
「こういうのでぶすっと」
琉海は両手でナイフを持って突き刺す動作をしてみる。