人魚姫
今だったらできる。
でもこれ以上情が移るとナイフはきついかも知れない。
その時は姉さんたちに頼んで毒を用意してもらおう。
琉海は何度もナイフを突き刺す動作を繰り返す。
ナイフの持ち方を変えてみたり、足を一緒に踏み出してみたりとポーズを確認する。
「痛っ、痛たたたたた」
琉海はお腹を抱えてうずくまった。
心配そうに茶々丸が琉海の周りをうろちょろする。
「あれ、ちゃ、ちゃ、ま、る」
大冴と一緒に行かなかったんだ。
と言おうとしたが言えなかった。
痛みはおさまるどころか激しくなっていく。
琉海は耐え切れずにそのまま床に倒れた。
痛すぎて目も開けていられない。
琉海の意識はそのまま薄れていった。
目が覚めると琉海は全てが白い部屋の白いベットの中にいた。
「あ、起きた」
すぐ横で大冴の声がした。
「おまえ大丈夫か?茶々丸が呼びに来たからなにかと思って家に戻ったらさ、おまえが倒れてたんでびっくりしたよ」
そうだ、お腹がすっごい痛くなって。
琉海は自分のお腹に手をやる。
あの激しい痛みはどこかへいっていた。
「別に悪いところはないみたいだけど、気になるならもっと大きい病院で診てもらった方がいいってさ」
病院?病院はダメだ。
琉海は飛び起きた。
「ここは?」
「診療所だよ」
琉海は大冴の顔を覗き込んだ。
ば、ばれてない?
「なんだよ」
「いや」
ばれてないんだったらよかった。
別に人魚とばれたら終わりなわけではないが、普通に考えてまともな男が人魚の女と契りを結びたがるとは思えない。
本当に心から愛されたら別かも知れないが。
心から愛される?
琉海はその言葉を繰り返した。
それと同時にさっき大冴が言ったことを思い出す。
俺は律以外の女は愛さない。
「ちゃんとした病院で検査してもらうか?」
大冴が訊いてきた。