人魚姫
「海男もあたしみたいにどこが悪いの?なんであの受付の女の人はもう終わりとか言ったんだろう。ねぇ、なんでだろう。ねぇもしかして」
冷たい手、海がつく名前、蒼い瞳。
急に周りのざわめきが気になった。
琉海は海男の手からメモとペンを取った。
書いた紙を破って海男に渡す。
——もしかして海男も人魚なの?
海男はずいぶん長い間琉海の書いたメモに視線を落としていた。
やがて顔をあげた海男は微笑んでいるようにも今にも涙がこぼれそうにも見える目をしていた。
もし海男が人魚だったら人間になった海男に残された時間は1年間だけ。
伝説の人魚である琉海のように生き延びる術はない。
——僕は琉海を追ってやって来た。
「どうして、なんでそんなことを。死んじゃうじゃない」
——琉海のことがずっと前から好きだった。
海男はすぐにまたペンを走らせる。
——琉海は本当にきれいだった。白銀の長い髪、虹色の尾、瑠璃色の瞳。一目惚れだった。
「だからあたしを追って陸に来たの?1年しか生きられないのに?あたしは陸の王子と結ばれないといけないんだよ」
——大丈夫、僕を信じて。
「大丈夫なんかじゃないよ」
琉海は声を荒げた。
近くを歩いていた男性がチラリと琉海を見た。
「どうして、どうしてそんなことしたの?海でそのまま待っていてくれたら」
もし陸の王子を射止めることができなかったら王子を殺してまた人魚に戻るつもりだったのに。
そうしたら、もしかしたら伝説の姫の役目を終えた琉海は海男と結ばれることができたかもしれない。
一応未來とは契りを交わしたみたいだから、残るは大冴だ。
もし大冴と結べなかったら……。
殺すのか?あたしは。
琉海は自分が大冴の喉にナイフを突き立てるところを想像してぞっとした。
殺せるはずない、大冴を。