人魚姫
それに1年というのは1年後という意味ではなく、あくまでも1年が限界というリミットのことであって、その前に真実の契りを結ぶことができればいいのだという。
「じゃあ、未來とはやっぱり違うんだ」
深海より深い想いというのがどういうものなのか琉海には分からないが、何も起こらないところをみるとそうなのだ。
それに、と海男は表情を曇らせた。
伝説の姫が陸の王子以外の人間の男と体の契りを交わすと、姫の体は腐ってしまうという。
「く、腐る?」
琉海は腐って悪臭を放つ自分を想像して全身に鳥肌を立てた。
——だから琉海はもっと自分を大切にしないといけない。
琉海は何度も頭を縦に振った。
危ないところだった。
うっかり姉たちの言う通りにしたら腐ってしまうところだった。
「でもどうして姉さんたちも知らないことを海男は知ってるの?」
——琉海を追って人間になる時に教えてもらった。
1年という自分の命と引き換えに。
——琉海を守りたい。
鼻の奥がつんと熱くなった。
唾を飲み込むとしょっぱい。
涙を飲むとこういう味がするのかも知れない。
「あたし本気になる!本気で大冴か未來と恋をする」
もしかすると世界を制することができたら、海男は死ななくていいかもしれない。
新しい世界になるのだ。
前の世界のルールが覆されることがあってもおかしくはない。
新しい世界を誰も見たことがないので分からないが、琉海はそんな気がした。
「あたし海男のためにも頑張るからね」
海男は口を開き何かを言おうとした。
「なに?海男、これに書いて」
琉海はメモを指差した。
——それじゃ僕は助からない。
琉海の目が潤む。
「海男が助かる方法はないの?ねぇ、絶対に1年後には死んでしまうの?」
——1つだけある。