人魚姫
「あるんだ!よかった!でそれはなに?」
海男はそれは琉海には教えられないのだと頭を振った。
教えるとその場で自分は海の泡となって消えてしまうという。
——琉海は僕のことは好き?
琉海の心臓がドクンと鳴る。
海男が陸の王子だったらと願っていた時もあった。
いつも琉海がピンチの時に助けてくれる海男。
その海男は琉海のことがずっと好きだったと言ってくれた。
「好きだよ、あたし海男が好きだよ。でもあたしは陸の王子を好きにならないとだめなんだもん。海男のこと本当に好きになっちゃって、陸の王子と真実の契りを結べなかったら、あたしも海男も死んじゃうし、それに姉さん達だって、海のみんなだって」
——大丈夫、僕を信じて。
「だめだよ!なんでそんなこと言うの?」
琉海は後ずさった。
琉海に伸びる海男の手を振り払う。
その手は今までで1番冷たく感じた。
「海男変だよ。なんかあたしと陸の王子の邪魔をしてる気がする。人魚だったらみんな知ってるよ。伝説の姫と人魚の男が恋したらいけないことぐらい。海男は本当に人魚なの?」
——違う、琉海、僕を信じて。
「大冴はあたし1人で探す」
琉海は海男に背を向けた。
少し走って振り返ると海男は追ってくる様子もなくただ悲しそうな目をして琉海を見ていた。
蒼い瞳が赤みががっていて、琉海の胸が傷んだ。
海男は自分の命と引き換えに琉海を守るために陸へやって来たのだ。
伝説の姫と人魚の男との禁じられた恋。
海男にとって死ぬまで深海に繋がれようが陸で死のうが同じことなのかも知れない。
それならば邪魔のいない陸で恋い焦がれた相手と少しでも一緒にいたいと思うのも無理はない。
海男が助かる1つだけあるという方法。
なぜ琉海に教えられないのか、なぜそれを海男は実行しようとしないのか。
「もしかして」
海男があたしを殺したら助かる?
海の姫と陸の王子も姫が王子を殺せば姫は人魚に戻れるのだ。
穏やかではない伝説のルール、有り得なくもない。
ぬっと琉海の前に白くて丸い柔らかそうなものが差し出される。
琉海の食欲をそそるいい匂いがする。
「琉海ちゃん、これ食べて元気出して」
未來が目の前に立っていた。