人魚姫
「琉海ちゃんってほんと変わった女の子だね。普通だったらいや〜んとか反応するのに」
そうだった。
人間は裸を見られると恥ずかしがる生き物だった。
普段から裸の人魚にはその感覚がない。
でも今さら恥ずかしがってももう遅いし。
琉海が食べこぼした豚まんの欠片を1匹のハトが懸命につついている。
パンをちぎって投げると、どこからともなくすごい数のハトが飛んで来た。
琉海はまたせっせと蒸しパンを小さくちぎって投げる。
そうするとまたハトが飛んでくる。
未來も一緒になってハトの群めがけてちぎったパンを投げる。
「大阪中のハト集まれ〜」
未來が歌うように言った。
2人でハトの大群にせき立てられるようにしてパンをちぎっていると、「こら〜ハトにエサやんな〜!」と怒られる。
未來は手の中のパンを盛大に空に放った。
「すみませーん」
そう叫ぶと琉海の手を取った。
「行こう琉海ちゃん」
温かい未來の手に引かれて琉海は走る。
空に舞ったパンがなんだかきれいでわくわくした。
未來は楽しい。
大冴みたいにすぐに怒らないし、未來が陸の王子であってくれた方があたしは幸せになれるかも知れない。
未來の背中を見ながら琉海はそんなことを思った。
「通天閣に上ろうか」
未来が指差す先に背は低いが東京タワーとスカイツリーのあいの子のような建物が建っていた。
通天閣の中は混雑していて、他の観光客とと一緒に最上階を目指す。
展望台の外に出ると琉海を迎えるように気持ちいい風が吹いていた。
「スカイツリーや東京タワーからの景色に比べるとそんなでもないけど、僕は通天閣も好きだよ」
未來は展望台をぐるりと1周しながらあそこに見えるのは大阪城だとかあれは世界で1番大きい温泉のスパワールドだとか説明してくれた。