人魚姫

「未來は東京タワーとスカイツリーと通天閣だったらどれが1番好き?通天閣?」

「どれも好きだけど、じゃあ通天閣」

「なんでじゃあ通天閣?」

「琉海ちゃんが僕にそう答えて欲しそうだったから」
 
 そう言って微笑む未來の顔が眩しくて、そんなことないよ、と琉海は景色を眺めるふりをした。

 大冴は1人で東京に帰ってしまったと未來は言った。

「名物のおはぎを大量に買い込んだって喜んでた」

「それって……」

 さっき海男がスマホで調べた店の名前を口にすると、そうそうよく知ってるねと未來はうなずいた。

 海男……。

 海男はあたしと一緒の人魚なのにどうやって生活してるんだろう。

 まだ返せずにいるあのコートはきっと盗んだか拾ったものなんだ。

 たまたまタチバナって名前の刺繍が入ったコートを。

 そのおかげであたしは大冴や未來に会うことができたんだけど。

 スマホやお金を持ってるが全部盗んだんだろうか?海男……。

 命がけであたしを追って来てくれたのに、さっきはあんなじゃなくてもう少し言い方があったかも知れない。

 いつもあたしがピンチの時に助けてくれる海男。

 海男は人魚だった時はしゃべれたんだろうか?焼肉屋で前はしゃべれたって言ってた。

 もしそうだったらまるであたしの前の伝説の姫みたいだ。

 人間になる代わりに声を失った。

 海男はまだこの大阪の街のどこかにいるんだろうか?

「るぅかちゃん、なに考えてんの?大冴のこと?」

 未来が琉海の肩を指でつつく。

「あ、う、ううん」

「やっぱ通天閣はあんまり?スカイツリーの方がいい?」

 スカイツリーは上ったことがないと琉海が言うと、じゃ今度一緒に上ろうと未來は片目をつぶった。

「それとも大冴の方がいいかな?あいつスカイツリー好きだからさ」

 大冴の部屋のリビングから見えたスカイツリー。

 寝室から見える東京タワー。



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