人魚姫
略奪愛なんかもまさにその典型。
だからと言ってそれらの愛が正しいとかそうじゃないとかを言っているわけじゃない。
精算されていない想いを引きずった相手との恋愛は思うより大変で、そんな過去のことをまるっきり知らない突然現れた人が簡単に相手をかっさらって行くこともある。
相手の悲しみも涙も知らず、笑顔しか見たことのない人が簡単に。
「愛は努力でするものじゃないと思うんだ」
ずっとしゃべり続けた未來の声は少しかすれていた。
愛は無秩序に生まれるから、努力ではどうしようもない。
相手がどんなに素晴らしい人でも愛せない時は愛せないし、反対にどんな極悪非道な人間でも愛してしまう時は愛してしまうんだ。
「寒くなってきたから中に入ろうか」
未來は琉海の手を取った。
「未來はそんな経験をしたことがあるの?」
琉海には未來が彼自身のことを語っているように思えて仕方なかった。
え?と未來は戸惑った顔をしたがすぐに頬を緩めた。
「違うよ、僕はない。僕じゃなくて大冴と律だよ」
未來は早口で短く言った。
律には他に好きな男がいたと。
「でも2人は結婚する予定だったんでしょ?」
「死んだんだよ」
建物の中に入ると生暖かい空気に包まれる。
「その男も」
もしかしたら律は今頃とっても幸せかもね、と未來はふざけた。
「じゃあ今の話は大冴の話ってこと?」
未來は琉海の質問には答えなかった。
その代わりに両手を頭の上にあげて輪を作った。
「片想いの連鎖」
くっつけた指先を離す。
「でもそれが繋がることはない」
未來は手を胸の前で交差させる。
「幸い僕にはそんな相手はいない。僕は真っ白だよ琉海ちゃん。僕と恋しようよ」
「その男の人はなんで死んだの?」
僕の告白は無視かい、と未來はふざける。
「事故?病気?」
「自殺」
未來は首を吊るまねをする。