人魚姫
『琉海』

 今度は琉海の胸の真ん中で。

 温かくて柔らかい光の玉のようなものが琉海の体を包む。

『琉海』

 琉海の体が揺らぐ。ゆるりとゆっくり、そしてだんだん早く激しく……。




「琉海ちゃん」

 目を覚ますと未來に体を揺すられていた。

「あ、やっと起きた。着いたよ」

 疲れていたのか、琉海は新幹線の中ですっかり寝入ってしまっていた。



 
 東京に戻ると大冴はおはぎのおかげですっかり機嫌が良くなっていた。

 それでも琉海が漢方を煎じ始めると臭い臭いと大騒ぎして家中の窓を開けまわった。

「おい、これから毎日それやんのかよ。マジ勘弁してほしいんだけど」

「おまえそろそろ仕事に行けば?」

 未來が突っ込む。

「未來、おまえに言われたくねぇよ」

「僕はこれでもちゃんとやってるからね」

 未來は琉海の手元の鍋に顔を近づけ、僕は好きだけどなこの匂い、と立ち上る湯気を嗅いだ。

 鍋の中の液体は町医者が飲んでいたのと同じような濁った何色でもない色をしていた。

「だったらこいつ未來んとこに連れてけよ」

「本当は僕もそうしたいんだけどさ、琉海ちゃんが大冴のところがいいって言うから仕方ない」

 なんで俺んとこなんだよ、と不貞腐れる大冴を未來はちらりと見ると琉海の肩に手をかけた。

「ねぇ、そう言えば、まだ琉海ちゃんの返事を聞いてないよね。僕の彼女になるって話」

「未來、おまえほんと手が早いな」

 大冴が呆れた声を出す。

「琉海ちゃんのただの保護者は黙っててくれないかな、大冴は向こう行っておはぎでも食べてなよ」

 なんだよ保護者って、とぶつぶつ言いながらも大冴は素直にリビングに戻る。

「さっき通天閣で僕が言ったこと覚えてるよね。大冴なんてやめて僕にしなよ」

 俺がなんだよ、と大冴が戻ってくる。

「ちょ、ちょっと待って」

 琉海は慌てた。



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