人魚姫
これはまずい。
まだ大冴と未來のどちらが陸の王子か分かってないのに、片方に絞るような状況になるのはまずい。
未來は大冴を落とすのは難しいと言ったが、難しくてもなんでも大冴が陸の王子だった場合、琉海にチョイスはないのだ。
まさに死に物狂いで大冴にアタックしなければならないのだ。
大冴が琉海を愛さなかったら、琉海に待っているのは「死」なのだ。
それとも……。
もういっそのこと未來にかけるか?
50パーセントの確率。
未來が陸の王子じゃなかったら琉海はおさらば。
未來はもうすでに琉海のことを好きになってくれているのだから、あとは琉海が未來を好きになるだけだ。
あれ?まだ自分は未來のことを好きじゃないのか?好きってなんだ?
あたしは海男のことが好きだよ!
琉海は激しく頭を振った。
今、海男のことなんて考えている場合じゃない。
あたしは伝説の姫としての重要な任務を背負っているのだ。
それにしてもいつからあたしの中にこんな責任感が生まれたのか。
いや、たぶん死にたくないだけ。
「あ、あたしは両方好き。大冴も未來も好き」
そ、そうだ。
このセリフしかないではないか、今。
「へぇ、そうなんだ」
大冴が不穏な笑みを浮かべて琉海に近づいてきた。
「おまえなんかに好かれても迷惑なんだよ。今日から未來んとこ行けよ」
琉海を見下ろす大冴は灯りの消えた灯台のようだった。
漢方は雑巾を絞ったような壮絶な味がした。