人魚姫
「琉海美味しい?」
いつの間にか目の前に海男が座っていて、琉海にしゃべりかけてきた。
「ほらもっと食べなよ」
海男はトングで琉海の皿に肉を積んだ。
「海男、しゃべれるようになったんだ」
「うん、足の毛を剃ったらしゃべれるようになった」
そう言って海男はスボンの裾をたぐる。
にょっきりと覗いたすねはつるつると光っていた。
3日間むうちゃんの店で働いているうちに琉海の心は決まった。
あたしは自分の店を持つ。
琉海の店だ。
むうちゃんから利益の出し方や客がリピートしたくなる接客の極意など、たくさんのことを教えてもらった。
むうちゃんの本名も教えてもらった。
夢美(むつみ)だった。
「どうして男の格好をしてんの?」
「これがあたしだからさ」
「男になりたい?」
「あたしはあたし、このまんまでいい」
「男と女どっちが好き?」
「あたしは人が好き」
むうちゃんだったら人魚も好きになってくれそうだと思った。
むうちゃんは3日分のバイト代をくれ、しばらく琉海を居候させてくれると言ってくれた。
皿洗いをすればむうちゃんの店で食事をしてもいい。
「その代わり1番安い肉だからね、あと売り上げが出だしたら家賃を入れること、商売が軌道にのってきたらとっとと引っ越しなよ」
むうちゃんの店の肉は1番安い物でも十分美味しかった。