人魚姫
海辺の風に新緑の匂いが混ざるようになったある日、未來がやって来た。
ずっと琉海を探して心配していたという。
今どこで寝泊まりしているのかと聞かれたので、むうちゃんの話をすると安心したような心配しているような複雑な表情をした。
「僕のところにおいでよって言いたいけど、言っても無駄なんだろうね」
「あたし自立することにしたんだ」
未來は白い巻貝のイヤリングを手に取って眺める。
姉が遠くの海で採って来てくれた珍しい貝で1番高い値段をつけたものだ。
「琉海ちゃんは本当に他の女の子たちと違うね。だから僕は琉海ちゃんが好きになったんだけど」
「違う?他と?どう違う?」
それはやばいんじゃないか?人間の女になりきってないってことじゃないか。
「いろいろ、いろんなところが普通の子と違う。それとも僕が琉海ちゃんのことが好きだから違って見えるのかな」
未來は巻き貝のイヤリングを買うと琉海にプレゼントだと言って渡した。
「こんなのだめだよ」
琉海がお金を返そうとすると、「きっととっても似合うよ、また来るね」と行ってしまった。
なんだかその背中が寂しそうだった。
未來がやってきた次の日、大冴がやってきた。
実際やってきたのは茶々丸で大冴は姿を見せなかったが。
琉海は茶々丸にピンクの珊瑚で作ったブレスレットとメモを持たせた。
『毎度!3000円になります』
しばらくして茶々丸はメモとお金を持って戻ってきた。
『高けぇよ』
それでも琉海が茶々丸にお釣りを持たせようとすると茶々丸は走って行ってしまった。
それからときどき未來と大冴は琉海を見にやってきた。
海男は1度も現れなかった。
これでいいんだ。
人魚の海男には伝説の姫である自分のことは諦めてもらうしかない。
これでいいんだ。
琉海は短いため息をついた。