人魚姫
むうちゃんの店は相変わらず繁盛していて、むうちゃんは暖簾のあっちとこっちを行ったり来たり忙しそうだ。
見かねた琉海は「ちょっとだけ手伝ってくるね」と大冴をテーブルに残し暖簾をくぐった。
琉海を見たむうちゃんは「悪いねぇ、ちょっとだけ頼んでいいかい」と素直に琉海に応じた。
「前は1人でも大丈夫だったのに、あんたが来てから体がなまっちまったのかねぇ。あんたがいなくなったらバイトでも雇わないとだめかもなぁ」
肉をせっせと切り分けながらむうちゃんは首に巻いたタオルで汗をぬぐった。
琉海は流しに溜まった皿を洗い、並べられた伝票を読むと小鉢にキムチを盛りビールを注ぎと、てきぱきと動き回った。
暖簾をくぐって表に出ると1人ぽつんとテーブルにいる大冴が七輪で1枚だけ肉を焼いている。
よしよし。
琉海は茶々丸の頭を撫でるように、気持ちで大冴の頭を撫でた。
空いた皿を持てるだけ持って戻るとむうちゃんは大きな肉の塊を冷凍庫にしまっていた。
「ありがとう、もういいよ。早く彼氏んとこに戻ってやんな、あとあたしが女だってちゃんと言ってやんなよ。ずっと怖い顔してこっち見てるからさ。本当にあんたのことが好きなんだねぇ」
「好き?大冴があたしを?」
むうちゃんは変な顔をした。
「付き合ってんだろ、あんたたち」
琉海はかぶりを振った。
「そうかい、だったらこのまま付き合わない方が彼のためかもね」
「どうして?」
「見えるんだよね、あたしには……」
赤い糸が。
むうちゃんは言った。
「あたしと大冴は繋がってないってこと?」
むうちゃんは琉海の問いには答えず、黙って冷凍庫の扉を開け中を眺めている。
もしむうちゃんの言うことが本当なら、大冴は陸の王子じゃないってことか?
大冴が陸の王子じゃないとすると未來が陸の王子ということになる。