人魚姫
「ねぇ、本当に本当に本当にむうちゃんは赤い糸が見えんの?」
人間の世界に赤い糸の伝説があることは知っていた。
でもまさか人魚の自分にも糸があるとは思わなかった。
琉海は自分の左手の小指を凝視する。
ここから伸びる赤い糸は未來に繋がっているのか。
「小指じゃないよ赤い糸は」
むうちゃんは琉海の立てた小指の先をつついた。
むうちゃん曰く運命の赤い糸は胸と胸の間、ちょうどみぞおちの少し上から伸びている糸どころか太い綱なのだそうだ。
色も赤だけじゃなくいろんな色があり、繋がっている者同士は必ず同じ色をしていて、2人が一緒にいるとオーラのように2人を囲んで輝くという。
「ねぇねぇあたしのは何色?」
琉海は胸を突き出した。
「あんたのはきれいな虹色だよ。あたしが今まで見た中で1番きれいな色をしてる」
琉海は暖簾をめくり表をのぞいた。
大冴が焼けた肉をかじっている。
「大冴は何色?」
「彼は赤。炎のような色をしてる」
琉海は改めて大冴をまじまじと見つめた。
そうか、大冴は陸の王子ではなかったのか。
ため息が出た。
あれ?なんでこんなため息が出るんだろう。
喜ばしいことじゃないか。
意地悪大冴が陸の王子じゃなくて優しい未來が王子だったんだ。
ほら、もっと喜べあたし。
でも大冴の糸があたしに繋がっていないとすると誰に繋がっているんだろうか。
あの嵐の日、木の葉のように頼りなげなヨットの上に1人取り残されていた女。
もしかして大冴の糸はあの人に繋がっていた?
「ねぇもし繋がっている相手が死んでしまったらどうなんの?糸はそのまま?それとも新しい糸になんの?」
「相手が死んでも糸はそのまんまだよ。運命の糸とは魂の繋がりだから、今世だけじゃなくて来世もその次の来世も繋がってる。逆に前世もそのまた前の前世からもずっと繋がってんだよ」