人魚姫
最初に助けた方が陸の王子だとか、いや最初に海に落ちた男がそうだとか、姉たちは延々と議論を続ける。
「ねぇ、それであたしはどうしたらいいの?お腹空いてきたんだけど」
荒れた海の中、人間の男を2人も助けたのだ。
琉海のお腹がキュルキュルと鳴った。
「あんたはどっちが好みだった?」
そう聞いてくる姉を別の姉が制する。
「いや、それじゃダメでしょ、好みより直感よ。琉海、どっちにピンときた?」
「分かんないよ、そんなの。外はすっごい嵐ですっごい風にすっごい波で、もうぐっちょぐちょの、ばっしゃばしゃの、ざぶんざぶんで、それどころじゃなかったもん」
姉たちはまた琉海そっちのけで議論を始めた。
でも今度はすぐに話がまとまったようだった。
「とりあえず2人を手玉に、いや2人ともものにしなさい」
「えー、やだよそんなの。1人でも面倒臭いのに2人なんて絶対無理」
琉海の意見はあっけなく却下され、いよいよ琉海は人間になるべく海のドクターに予約を取ることになった。
「ねぇ、本当にあたし人間にならなきゃいけないの?」
この後に及んで琉海は尻込みをしだした。
「なに今さら言ってるの、あんたは伝説の姫なんだからね」
「でもさぁ」
1番年配の姉が琉海の耳元で囁いた。
「琉海、陸の王子の心を見事に射止めて伝説が本当になったらね、一生死ぬまで毎日琉海の好きな肉をお腹いっぱい食べれるよ」
「ほんと?」
琉海は期待でその瑠璃色の瞳を輝かせた。
「ほんとよ、ほんと。だってあんたは陸と海の姫になるんだから」
「そっかぁ、そうだよね。なんだかやる気になってきた」
姉たちは琉海が気づかないところで顔を見合わせほくそ笑んだ。
そしていよいよ明日、海のドクターを訪ねるという日がやってきた。