人魚姫
もし大冴の赤い糸が死んだ彼女に繋がっていたとしたら、大冴は今世ではずっと1人ぼっちなのだろうか。
琉海は大冴を強く抱きしめたい衝動にかられた。
「でも運命の糸で繋がってるから必ずしも一緒になるわけじゃないんだよ、これがまた」
「どういうこと?」
「みんな心じゃないとこで恋愛をしてるってことさ」
むうちゃんは頭を指差し、それから下半身を指差して下品に笑った。
心以外で恋愛をするとどんどん糸が汚れていくのだそうだ。
そうすると糸は細くなって本来の力を失ってしまい、本当の相手が近くにいても引き寄せることができなくなってしまうという。
「心配しなくてもあんたの糸は全然汚れていないぶっとい糸だよ、それにあんたの糸は特殊だよ」
「特殊?」
虹色の糸を持つ琉海は全ての色の糸と繋がろうと思えば繋がることができるのだという。
ただ1度他の色と繋いでしまったら、本来繋がるべき同じ虹色の糸を持つ相手とは繋がれなくなってしまう。
糸は簡単には解くことができない。
下手をすると気の遠くなるくらい長い間、本来のパートナーを待たせることになる。
「そしてあんたは繋がりながらも、どこかでずっと本来のパートナーを探し続けることになる。だから簡単に他の色と繋いじゃいけないよ」
「でもあたしはもう大丈夫だね。むうちゃんがいるもん。むうちゃんに見てもらえばいいもん」
そうだ、念のため未來をむうちゃんに見てもらわなければ。
とりあえず大冴のところに戻るね、と琉海は暖簾をくぐった。
「そう簡単にいかないのが一色以上の糸を持つ人間の宿命なんだけどね」
むうちゃんはそっと自分の胸を撫でた。
席に戻ると大冴が甘いものが食べたいというのでむうちゃんの店を出て海辺に戻った。
ソフトクリームを満足そうに食べる大冴の胸の真ん中を凝視する。
琉海には何も見えないがあそこからは炎の色をした糸が伸びてるのだ。