人魚姫
琉海はむうちゃんの言った言葉が本当かどうか大冴をうかがっていた。
「ずっとだよ、律が俺のことを好きでなくても他の奴が好きでも、じいさんになってもずっと、俺が死んだ後もずっと」
琉海の心がズクンと傷んだ。
むうちゃん嘘じゃん。
これっぽっちも大冴はあたしのことなんて好きじゃないじゃん。
それに、あたしだって大冴のこと好きでもなんでもないのに、なんで。
なんであたしは今傷ついてるんだろう。
大冴が死んだ恋人を想い続けていることは最初から分かっていたことじゃないか。
大冴はこんなにも、死んだ人をこんなにも……。
どうして彼女はこんなに大冴に愛されているのにいつまでも死んだ他の男のことが好きだったのだ。
「彼女が好きだった人ってどんな男だったの?大冴もけっこういい男なのに、大冴が逆立ちしてもかなわない人だったんだ?」
琉海はわざと明るく言った。
海の方で大きな魚が跳ねるような音がした。
もしかしたら姉さん達がこっちを見ているのかも知れない。
「律は真人(まひと)が好きだった」
「真人?」
「俺の兄貴」
大冴は立ち上がると暗い海へと寄って行った。
「律はさぁ、ずうっと真人のことが好きだったんだよなぁ。真人は頭も良くてスポーツ万能でかっこ良かったしな。真人のラグビーの試合の時は必ず声が枯れるまで応援して、あいつ大事な面接の前なのに声が出なくなっちゃたりしてさ」
大冴はくすりと笑った。
そんな彼女を大冴は好きだったのかも知れない。
顔も名前も知らない男ならまだしも、自分の兄を彼女が見つめ続けているのを見るのはどんな気持ちだっただろう。
大冴は両親も真人に期待をしていたと言った。
「もしかして大冴って全然期待されていない次男って感じ?」
「おまえはっきり言うなぁ。普通ここは同情するところだろ」
暗くて表情はよく分からなかったが大冴は笑っているように見えた。