人魚姫
「あたしも姉さん達よりできが悪いって、いつも言われてたよ」
琉海は伝説の姫として生まれこそしたが、姫としての資質が欠けていると言われていた。
なんでよりによって琉海なのかと、他にもっと姫にふさわしい人魚もいるのにと、年配の人魚たちが嘆いていたことも琉海は知っている。
「でもそんなのくよくよ悩んだって仕方ないじゃん」
「別にくよくよしてねぇよ」
「してるように見えるよ」
いつもの大冴はもっと偉そうで上から目線じゃないか。
今もそうしていればいいのに。
「おまえ本当にはっきり言うなぁ」
へ〜んな女とつぶやき、また琉海の横に座ると空を見上げた。
「なんで真人は死んじゃったんだろうなぁ」
琉海も一緒に夜空を見上げたが1つの星も見えなかった。
「真人じゃなくて俺が死んだ方がみんな幸せだろうにさ」
「そう言うと周りがそんなことないよぉ、大冴だっていいとこあるよぉ、とか言ってくれると思ってんでしょ」
空を見上げていた大冴が琉海を見る。
大きく目を見開いて驚いている。
「おまえなんかすごいな」
「なにが」
「いや」
大冴は背中を丸めてひじをついた。
「ま、おまえみたいな方が俺も気が楽だけどさ。表面では同情して心の中ではそれとは反対のこと思ってるのかな、なんて思うと、いきなりその人間がホラー映画に出てくる怪物みたいに見えて怖くなるんだよな」
大きな大冴が小さな子どもに見えた。
今、自分の目の前で背中を丸める大冴が誰かに愛してほしくてたまらないと、叫んでいるように見えた。
気づくと琉海は大冴を抱きしめていた。
「大冴のことを本当に愛してくれる人が必ずいるよ」
大冴の炎の色をした糸は誰かに繋がっているはずだから。
「律がいい」
琉海に大人しく抱きしめられた大冴は低く唸るように呟いた。
彼女じゃない、他の誰かでありますように。