人魚姫
「ねぇ、その人の糸は何色だった?あたしと同じ虹色だった?」
ぷしゅっと空気が漏れる音がする。
むうちゃんは美味しそうにビールを飲むと、ぷはああああと息を吐く。
「分からん。集中しないと見えないんだよ。いつもみんなの糸が見えてたら視界が騒がしくて仕方ないだろ」
「じゃあ明日連れてくるから見て」
むうちゃんはビールを飲みながらうなずいた。
その晩琉海は夢を見た。
霧の立ち込める海辺に琉海は立っていた。
砂浜の向こうから白馬が駆けてくる。
よく見るとその上に誰かが乗っていた。
『やあ、琉海、迎えに来たよ』
琉海の目の前で馬を止めたのは琉海の知らない男だった。
男は胸元にえむ・たちばなと 刺繍してある服を着ていた。
男は琉海に手を差し伸べる。
『だめだよ、あたしは海男を待ってるから』
琉海は男の手を振り払った。
『痛え、なにすんだよ』
いつの間にか馬の上の男が大冴になっていた。
『あれ、大冴』
『さ、行くぞ琉海』
琉海は大冴に抱きかかえられるようにして馬に乗った。
大冴の胸の中はとても温かかった。
琉海は目を開けた。
ぼんやりと薄暗い天井が視界に入る。
「えむ、たちばな、まひと、真人橘」
琉海は起き上がった。
「まさか」
部屋の隅にたたんで置いてあるコートを琉海は見た。
むうちゃんの店を訪れたのはやはり未來だった。
「昨日近くまで来たからさ、琉海ちゃんに会いたくなって」
琉海の店まで行ってみたが、すでに琉海の姿はなく近くに焼肉屋があったので、もしかしたらと思ったというのだ。
「でもある意味大正解だったわけだ」
その日未來は真っ白な服を着ていた。
さらさらの長めの髪に白い肌。
端正な顔だち。
未來は本当に王子さまみたいだ。
昨日夢で見た大冴よりよっぽど未來の方が白馬が似合う。