ちゃんと伝えられたら
私は信じられないという顔をする。

「夕飯は当然済んでいないですよね?」

私の言葉をスルーすると、寺本さんは微笑みながら聞いた。

「でも私、約束があって…。」

私には坂口さんの顔が浮かんでいる。

「坂口さんとはいつでも会えるでしょう?今日は俺を優先させてもらえないですかね。」

私は静かに目を閉じ、覚悟を決めて寺本さんを見る。

「分かりました。でも食事をするだけの時間はありませんので、少し歩きながら話をしませんか?」

そう言った私に、寺本さんは渋々うなずく。

「俺はこないだの事を思い出すと、この辺が温かくなることに気が付いたんです。」

寺本さんは自分の胸を示す。

「仕事ばかりして来た俺にこんな感情があるなんて、正直自分でも驚いています。」

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