ちゃんと伝えられたら
坂口さんは呆れたような表情を見せる。

「じゃあ、坂口さん。三島という女性の事を篠田さんにも、そして俺にもちゃんと説明をしてくれませんか?」

私はこっそりと坂口さんの様子を伺う。

不意に寺本さんから出たその名前に、坂口さんは余裕の態度を見せる。

「それを今日は志保に話すつもりだったんです。その機会をあなたが潰すところだったんですよ。分かっていますか?」

坂口さんは真剣な目を寺本さんに向ける。

「もう俺達に構わないで下さい。志保を解放してやってください。」

坂口さんはきつい口調で、でも深々と頭を下げる。

その圧倒的な様子に寺本さんは声も出ない。

横で私も頭を下げた。

「申し訳ありません。寺本さんは私には勿体ないくらいすごく良い方です。私の事をこんなに気にかけてもらってとても嬉しいです。でも…。」

私は寺本さんの目に自分の視線を合わせた。

「寺本さんのその思いには答えられません。本当にすいません。」

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