ちゃんと伝えられたら
「いいえ、もう準備を始めていたので、大したことではありません。」

やっと私に笑みが浮かぶ。

「この成果を持って、上層部に掛け合うつもりです。俺が絶対に篠田さんをこのプロジェクトから外させるような事はさせませんから。」

「良いんですよ、誰かに引き継ぐにしてもプロジェクトが上手くいけばいいのですから。」

もう私にはこのプロジェクトに対する執着はなくなっていた。

どんな仕事であれ、綾人さんの手助けを出来たらいい。

「違います。山田をはじめ、こちらの担当者が困るのです。篠田さんの作る書類はそれほどこのプロジェクトの基本部分を占めているのですから。」

綾人さんが私の肩に手を置いた。

いつの間にか私の頬に一筋の涙がつたっていたからだ。

「篠田さん、俺は本当にあなたが好きでした。どんな手を使ってでも、あなたから坂口さんを引き離したいと思ったくらいです。」

そして寺本さんは電話口でフッと笑った。

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