ちゃんと伝えられたら
坂口さんはそう言ってくれた。

会議室で二人になるのはどうしても避けたい。

「何か分からない点が出てきたら、俺を呼んでくれ。しばらくは社に居るから。」

「分かりました。」

私は資料を抱えて、ロビーへ下りて行った。

受付のところで寺本さんがにっこり笑って、手を振っている。

「お世話になります。何か急な変更でもありましたか?」

私は無難な言葉を投げかける。

「いいえ、この近くまで来ましたから寄っただけです。」

そりゃそうだよね、ちゃんとした仕事の話なら私ではなく坂口さんに用があるはずだもの。

「少し時間をもらえませんか?」

寺本さんの言葉に、資料を持つ私の腕に力が入る。

「近くのカフェで話せませんか?」

寺本さんの思いがけない問いかけに私はうろたえる。

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