ちゃんと伝えられたら
「ああ、道人さん。」

そこには私が先日会った坂口さんの弟の道人さんが立っていた。

「こんな所で打ち合わせですか?」

道人さんはじろりと寺本さんを見る。

「ええ。そう言えば道人さんのお店はこの近くですね。」

このまま帰る事が出来ないだろうか。

そんな考えが頭に浮かんだ途端…。

「さっ、行こうか。」

何とも強引に道人さんは私を連れ出そうとした。

「おい、失礼じゃないか。仕事の話をしていたんだぞ。」

寺本さんはムッとしたように、道人さんに声を少し荒げた。

「彼女の顔を見ていると、そうでもなさそうだったんで。」

そして道人さんは私の手を取ると、ニッコリ笑った。

「女性を困らせるのはダメですよ、いくら仕事上でも。」

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