教育係の私が後輩から…
「でもなぜ?」
「専務は、前社長の想いを守ろうとしてたんじゃないですか?」
私がそう言うと、専務は何処か懐かしそうに、窓の下に見える旧社屋を眺めながら話し出した。
「私は妻と結婚して、お義父さんに一から仕事を教わりました。
お義父様はとても厳しい方でした。
ですが、厳しさの中にも優しさがあった。
私が失敗すれば社員の前だろうと、怒鳴り叱った。
でも、必ず、何処がいけなかったのか、そして、どうすれば良かったのか、考えさせて育ててくれました。」
「そう。あの人(夫)はそういう人よ?」キクさんは懐かしそうに話す。
「副社長にも、同じ様に接したのではないでしょうか?
でも、副社長には、前社長の気持ちが届かなかった?
それどころか、奥様を裏切り、うちの女子社員である日比野さんと、関係をもった。」
「ば、馬鹿な事を言うな!? 俺が社員に手を出したというのか!? 証拠があるのか!? 」
「副社長! 黙って彼女の話を最後まで聞きなさい!」と、キクさんが、言う。
「冗談じゃない! こんな誰にでも、股開く女の話、黙って聞けと言うのか!?
誰かこの女を摘み出せ!」
副社長派の者達が、私を摘み出そうと近づいてくる。
「証拠なら、ありますよ!」
「嘘つくな!?
そんなものある訳ない!」
「副社長、何もやましい事がないなら、彼女の話、最後まで聞きませんか?
それとも、彼女の言ってる事に、覚えがありますか?」と、専務がいう。
「ある訳ないだろ!?」
その時、会議室のドアがノックされ、七本が、日比野さんを連れてきた。
「な、なんだ、その女は!?」
「ご存知ですよね? 日比野さんとは2年も関係持ってたんですから?」
さっき、社長室へ案内してもらう時に、日比野さんを説得して、話を聞いていた。
不倫だろうと、私には関係ないと、初めは思ってた。
でも、副社長から貰った香水を肌身離さず持っている彼女が、哀れに思えたのだ。