教育係の私が後輩から…

「俺は…俺は、好きな女との結婚を諦めてまで、見ず知らずの奴の子を孕んでる女の為に、養子に来てやったのに、どうして社員の前で辱めを受けなきゃならないんだ!

そのうえ、『お前は上に立つ器じゃない』とまで言われて… やってられる訳ないだろ!?

それでも長女の婿なら、いつかは、と思って耐えてた。
社長が亡くなって、やっと…やっと、俺が社長になれると思ったら、お義母さんは誠一郎を後継者にすると言い出した。

他人の子を育ててやったこの俺を差し置いて!?
クソガキを俺の上に置くって…そんな屈辱我慢できるかよ!?」

「巫山戯るな!?
テメェーの能力が無かっただけだろ!?
…父さん…俺は会社なんてどうでも良かった…。

俺は醜い争い事に巻き込まれたくなくて、海外まで逃げたのに…

貴方は息子の気持ちを、知ろうともしなかった。
それどころか、あちこちに女を囲い、社員に迄手を出した、挙句に、俺の愛する者を殺そうとした。
絶対に許さない!」

誠一郎は副社長の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。

「誠一郎ダメ!」

私は誠一郎に駆け寄り、振り上げた彼の腕に縋って止めた。

「宣美、何故止める!こいつはお前だけじゃなく、俺達の子も殺そうとしたんだぞ!?」

「分かってる! 分かってるけど、ダメ! お願いだから止めて!」

「誠一郎、止めなさい!」

叱責したのはキクさんだった。

「殴るなら、私を殴りなさい! 私達が副社長の気持ちを、察してあげれなかったのが、いけなかったの… 本当にごめんなさい。 みんなに辛い思いさせてしまって…」

キクさん…
あなたも辛いのに…
愛する人が残した物を守る為にした事が、愛する者達を傷つけてしまったなんて…




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