教育係の私が後輩から…

明日は創立記念式典であり、キクさんの退陣と共に、誠一郎が社長に就任する日である。

パーティーには、取引先を始め、財界人も多く出席する。そして社員は、ゲストをおもてなしする、ホストとして参加しなくてはならない。
だが、私はキクさんに労いの言葉を掛けるどころか、誠一郎の、晴れ姿を見る事も出来ない。

朝から鳴り続ける携帯の電源をオフにして、玄関の鍵かける。

外の世界の全てを閉ざしたい時は、いつも布団を頭まで被り、音と光、全てをシャットアウトして生きてきた。

父が出て行った時も、母が酔って父の恨み言を言っていた時も…

高校の時、シカトされ陰口を叩かれていたときも…

大好きだった祖母が亡くなった時も、
こうして悲しみを時が忘れさせてくれるのを泣いて待っていた。

なにも聞こえない。
誰からの誹謗中傷も…

このまま何処か遠くへ行ってしまえば、
楽なのかもしれない。

玄関に置かれた、準備済みのスーツケース。
今までは無いと落ち着かなかっなに…
今はそれを見るだけで辛くなる。




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