教育係の私が後輩から…

翌日、出勤すると直ぐに課長へ移動願いを出した。
本当は誠一郎の顔なんて見たくないから、出勤したくなかった。
いつもと違う体の違和感に、昨夜の事が脳裏に浮かび、夢だと思いたくとも、現実だったと思い知らさられる。

「先輩…昨日は…」

話しかけないで!
今は、声も聞きたくない。

だが、そんな事も言ってられないのが、現実の世界。

「猪瀬君、おはよう!」

出来るだけいつもと変わらない様に…
誰にも気づかれない様に…
いつもの私を装おう。

「え?先輩…」

でも、許した訳じゃない!
いつか、罪は償わせる。
あなたにとって、一番屈辱な方法で!

「えーと、今日13時に、
立花興業の井ノ川さんがお見栄になるから
其までに資料コピーして用意しといて?
 それからこの企画、君に任せるから宜しく!」

「えっ!? ちょっ…」

『酷い…猪瀬さんに丸投げして…』
『猪瀬さん、僕たちがフォローしますから? 
 あんな女居なくても大丈夫ですよ?』
『そうですよ? 私達も手伝いますから?』

「あっいえ…大丈夫です。
一人で何とかしますから…」

周囲から向けられる冷たい視線なんて、今更気にならない。
このまま仕事放棄すれば、数日後には資料課へ戻される。そしたら、憎い彼とも顔会わせずに済む。

「佐伯さん!
部長からも、言われてると思うけど、 
猪瀬君に無理な仕事振らない様にね?
1年だけの在席なんだから…
 もっと上手くやってくれないかな?」

「どうせ、1年したら居なくなるから?
 適当に相手しとけば良い?
 だったら、教育係なんて必要無いですよね!?
 今すぐ、教育係から外して下さい!」

私は資料課へ行ってくると言って、部屋(課)を出た。
それからの私は、本来の部署へ顔出さず、毎日資料課に篭っていた。




< 11 / 135 >

この作品をシェア

pagetop