教育係の私が後輩から…

同僚らの視線が辛い。

「七本、Y社の提案書と資料見せてて?」

誰かと思えば、今、一番会いたくない佐伯だった。

「いや…それは…
お前だけには見せるなって、部長に言われてるから…」

これ以上勝手な事して、部長の機嫌損ないたくない。
だが、もしかして、佐伯なら…

「チッあのハゲ!… 私が勝手に見たことにすれば良いから!」

いや、ダメだ!
この女だけには、借り作りたくない。

「良いい皆んな!?
私が勝手に見たんだからね!?」

え?
佐伯はその場に居た同僚に、俺を助けるかの様に言ってくれた。

「さぁ、早く見せて!」

佐伯は、ほらっ!と言って、俺から書類を奪い取った。

お、おい!?

佐伯は資料に目を通すと、何処かへ電話をかけていた。

「もしもし、ご無沙汰しております。佐伯です。実はお願いが…………はい。先方には、私からお話しさせていただきますので、………そちらにご迷惑は一切お掛けしませんので………はい。有り難うございます。宜しくお願いします。」

「七本、手土産、青福堂の朔日餅!」

「え?」

「明日、相馬社長宅行くんでしょう? 
 青福堂の朔日餅持っていきな!
それで朔日餅は…」

そんな事、お前に教えてもらわなくても、とっくに調べて知ってる!
俺が、そんな事もしらべてない、馬鹿だと思ってるのか!?

「相馬社長が、青福堂の朔日餅が好きなくらい知ってるよ!! 先月だって、朝一で買って持っていった。
でも、ダメだったんだよ!
もう、良いから放っといてくれ!!」

「七本さん、明日もう一度、謝りに行きましょう? 僕も一緒に行きますから?」

「猪瀬さん…」

「猪瀬君、あたし、今日はもう帰るから! あんた達も時間になったら、さっさと帰んなよ? じゃ、お先に!」

なにが、時間になったらだ!
帰れるかよ!?
いま上では、俺のやらかした事で、重役会議が行われてるのに…。

「やっぱり俺、クビかな…?」

「七本さん、
こんな所でウジウジ考えても仕方ありません。 まだ、何も決まった訳じゃない。 今は、僕達にやれる事をやりましょう?」

「猪瀬さん… ありがとうございます。」




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