教育係の私が後輩から…
有馬社長の奥様に部屋へ案内されると、そこには車イス姿の有馬社長がいた。
有馬社長は数年前事故で、両足を切断し車イス生活になったと聞いている。
車椅子になってからも、積極的に現場に出て、業績をのばしてきた凄い人らしい。
その凄い有馬社長を俺は怒らせてしまった。
「有馬社長、再び御時間頂き、有り難うございます。」
俺は深く頭を下げた。
隣にいた猪瀬さんが、自ら自己紹介をした。
「失礼しました。始めましてお目にかかります。
猪瀬誠一郎と申します。」
しまった…
俺に付いて来てくれたのに、猪瀬さんを紹介するの忘れてた。
「まぁ座りなさい。」
社長に勧められて、座らせてもらう事にした。
「七本君、何度来てもらっても、私の返事は変わらないよ?」
「有馬社長、もう一度お考え頂けないでしょうか?」
え?
「猪瀬君と言ったかね?」
「はい。」
「担当者でもなく、先輩の失敗に頭を下げる君の熱意には、心打たれるものはある。
だが、誰が来ようと、私の返事は変わらない。」
諦め掛けていた俺の為に
猪瀬さんが社長に食い下がってくれてるのに、俺はこのままでいいのか?
「そこをなんとか…」
俺はソファーから降り、土下座した。
すると、猪瀬さんまでも、俺の傍らで、土下座してくれた。
この人は、なんて人なんだ。
本来なら、俺なんかが話せる相手じゃないのに…
俺の為に土下座までさせて…
猪瀬さん、俺、あんたに一生ついていきます!
その時ノックと同時にドアが開き、奥様に案内され部屋へ通されたのは、佐伯だった。
「やぁ宣美! 久しぶりだね?」
宣美?…
固い表情だった社長の顔が、一瞬にして変わった。