教育係の私が後輩から…
やっぱり、あの噂は本当だったのか?
「あなた宣美さんから、いつもの頂きましたよ?」
いつもの?
有馬社長は、奥様からそう聞くと、直ぐに持ってくるように言った。
「いつもすまんね?」
「いえ、次いでですから?」
次いで?
佐伯は何を持ってきたんだ?
「で、今日は泊まっていけるのかい?」
「はい。お泊まりセット持ってきました。」
社長の問いかけに佐伯は着替えが入っているであろう鞄を上げて見せた。
こいつ…
俺達が居るのに堂々と…
「そうか、今夜は楽しみだ。」
許さない! 絶対許さない!
どんな理由があろうと、取引相手と、体の関係を持つなんて…
そんな仕事のやり方、俺は許さない。
「佐伯、お前!?」
「七本さん!」
佐伯の行動を止め様としたら、俺が、猪瀬さんに止められてしまった。
どうして、止めるんですか!?
猪瀬さんも、こいつの噂、聞いてるでしょ!?
あなたは許せるんですか!?
その時、再びドアがノックされ、奥様が入ってこられた。
そして、既にテーブルに置かれていた、俺達が持って来た朔日餅の横に、奥様は新たな朔日餅を置いた。
え!?
同じ物…?
佐伯が、同じ物を持ってきたと言うのか?
なぜ?
俺が持って来る事は、佐伯も知っていた筈。
奥様は社長の前だけでなく、俺達の前にも同じ朔日餅を置いた。
え?
どう言うことだ?
俺達に食べ比べさせる気なのか?
勿論、俺だけじゃなく、猪瀬さんも驚いていた。
「すいません。僕達も頂いて宜しいでしょうか?」と、猪瀬さんは有馬社長に聞いた。
驚いているだけの俺に代わって、猪瀬さんは何かを確かめようとしてる様だ。
もしかしたら、何が違うか分かったら、社長の許しがもらえるのか?
「ああ、すまん。私だけ頂いてはいかんな?」
「いえ、社長へお持ちしたものですから…」
「うん。君達も食べなさい。美味しいよ?」
「有り難うございます。頂きます。」
だったら、解いてやる!
社長が何を言わんとしてるのか…
この朔日餅の違いはなにか?
だが、分からない。
意気込んで食べてみたが、全く解らない。
何が違う…?
見た目も味も同じだ。
違うと言ったら、餅が乗った皿だけ…
同じ朔日餅じゃないのか?
隣の猪瀬さんも同感なのか、首をかしげてる。
俺達には微妙な味が分からないと言うのか?
「宣美さん、今夜、本当に宜しいのかしら?」
「はい。私もそのつもりで来てますから?」
「やっぱり婆さんより、若くて綺麗な方が良いからな?」
社長の言葉に佐伯は、「社長、奥様に失礼ですよ?」と、いう。
社長は本当の事だと笑い、奥様は慣れてますからと笑う。