教育係の私が後輩から…
翌日の夕方、A&Mの社長宅へ向かった。
「ご無沙汰してます。
お身体お変わり有りませんか?」
有馬社長は7年前、事故で脊髄を損傷したうえ、両足を切断することになった。それ以来、社長は車イスでの生活へと余儀なくされた。
私が奥様に部屋へ通されたときには、ちょうど七本と誠一郎が社長の足下で、頭を下げていた。ほぼ、床に頭を擦り付ける様にだ。
固い表情を見せていた有馬社長は、私の姿を見て微笑んでくれた。
「やぁ宣美! 久しぶりだね?」
「あなた、宣美さんから
いつもの頂きましたよ?」
有馬社長は、奥様からそう聞くと、直ぐに持っ
くるように言った。
「いつもすまんね?」
「いえ、次いでですから?」
「で、今日は泊まっていけるのかい?」
「はい。お泊まりセット持ってきました。」
そう言うと、私は着替えの入った鞄を上げて見せた。
「そうか、今夜は楽しみだ。」
「佐伯、お前!?」
「七本さん!」
七本が顔色を変え、何かを言おうとしたところを、誠一郎が止めたところで、ドアがノックされ、奥様が入ってこられた。そして、既にテーブルに置かれていた朔日餅の横に、奥様は私が持ってきた朔日餅を置いた。彼らの前にも同じ様に置いた。
すると有馬社長は、私が持ってきたものを美味しそうに食べてくれた。
その姿を見て、七本と誠一郎は凄く驚いていた。
二人が持って来た、有馬社長の好物であろう朔日餅には一切、手を付けず、私の持っていった朔日餅を喜んで食べていたのだ。
二人が驚くのも仕方がない。同じ様に見えて同じものでは無いのだから。
「宣美さん、今夜本当に宜しいのかしら?」
奥様はそう言うと彼等をみた。
社内での私の噂を気遣っての事だろう。
だが、誰に何を言われても私の気持ちにブレはない。