教育係の私が後輩から…
今日の企画室の空気は重い。
七本さんが大きなミスをしたらしい。なんでも会社に莫大な損失を与えかねないミスをしたと噂にきいた。
その七本さんは社内の皆から憐憫(れんびん)の眼差しを向けられ、今も頭を抱えている。
そんな中、暫く姿を見せなかった佐伯先輩が現れ、そして真っ直ぐ七本さんのデスクへ向かった。
何する気だ?
「七本 提案書と資料見せて?」
「え? いや…それは…部長におまえだけには見せるなと言われてるから!」
「はぁ!? チッ…私が勝手に見たことにすれば良いわ!」
七本さんから資料を奪い取ると、佐伯先輩はブツブツ独り言を始めた。
そして自分の携帯を上着から取り出すと、何処かにかけていた。
「もしもし、ご無沙汰しております佐伯です。実はお願いが…………はい。先方には私からお話しさせていただきますので………そちらにはご迷惑お掛けしませんので………はい。有り難うございます。宜しくお願いします。」
電話が終わると先輩は七本さんへ
「手土産、青福堂な朔日餅」と、言った。
「え?」
「明日、相馬社長宅行くんでしょう?
青福堂の朔日餅持っていきな!
それで朔日餅は…」
「相馬社長が、
青福堂の朔日餅が好きなくらい知ってるよ!!
先月だって、朝一で買って持って行ったんだ!
でもダメだったんだ!
もう、良いから放っとくれ!」
七本さんはやけになってる。
このまま終わらせて良いのか?
いや、ダメだ!
佐伯先輩が手を差し伸べてるのに、俺も何かしないと…。
「七本さん、明日もう一度謝りに行きましょう!
僕も一緒に行きますから?」
「猪瀬さん…」
「猪瀬君、あたし、今日はもう帰るから!
あんた達も時間になったら、
さっさと帰んなよ?
じゃ、お先に!」
「先輩? 何をするんですか?」
やっぱり…
先輩は俺の問いかけに答えるどころか、俺の顔さえ見なかった。
くっそっー…
俺は、自分の行動の愚かさに、どれだけ悔やめば良いのだろう。