幼なじみの榛名くんは甘えたがり。



「ずるいよ……榛名くん」


胸の中で思っていただけの言葉を無意識に口にしていた。


すごく、小さな声だった。
自分にしか聞こえないくらいの、つぶやき。


すぐにハッとして、ごまかすように下を向いた。


「ずるいってなにが?」


聞こえていなければよかったのに…と思ったけど、これだけ静かな場所だと小さな声でも拾われてしまう。


榛名くんからの問いかけに答えようにも、なんと答えたらいいのか、答えが見つからない。



「……ちゃんと答えてよ、ひな」



いつもより優しい声で聞いてくる。


そして、榛名くんの大きな手のひらがわたしの両頬を挟んで、無理やり顔を上げられた。


目がしっかりあって、思わず逃げ出したくなるくらいに距離が近い。



もう今、この瞬間に榛名くんへの全ての気持ちが溢れてきてしまいそう。


たぶん、一度自分の気持ちに抑えが利かなくなったら、言いたいことを全て言ってしまう気がする。

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