限りない愛~甘い彼に心揺れて~
額には汗が滲み出ていて返事も出来ないほど、苦しそうだ。私は「きゅ、救急車……」とスマホを取り出した。一刻を争う事態だ。すぐに呼ばないと……。

慌てる私の声がめぐみや畑野さんに届き、「会長!」とそれぞれが声をあげた。その切羽詰まった声にさらに周りが何事かとざわめきだす。


「おじいさん、大丈夫ですか? 救急車呼んだ?」

「あ、今……」

「いや、呼ばなくて……いい……だ、いじょうぶだ……から」

「でも……」


私が震える指で『119』を表示させるとそれを大ちゃんが奪い取り、通話ボタンをタップしようとするが、会長の手が大ちゃんの方へ伸びた。


「大祐、大丈夫だから……呼ぶな」

「本当に大丈夫ですか?」

「ああ、騒がせて悪かった。もう帰るよ」


会長の呼吸は苦しさが消えたのか落ち着きが戻っていた。かけていたブランケットを簡単にたたんで立ち上がろうとするが、大ちゃんがその前に背中を向けて、屈んだ。屈む前にサッとスーツの上着を脱いで、私に渡してきたのでそれを預かった。


「送ります。どうぞ」

「は? いや、いい。自分で歩ける」
< 156 / 202 >

この作品をシェア

pagetop