限りない愛~甘い彼に心揺れて~
社内での移動なので、何かが起こると心配するようなことはない。でも、副社長は心配性のようだ。

次の予定までたった30分しかないのに、わざわざ足を運ばせてしまったのは申し訳ない。


「お忙しいのに、申し訳ありません。こちらが見本誌になります」

「それは宮坂さんがちゃんと責任持って、届けて」


副社長に手をしっかりと握られ、エレベーターの方へと引っ張られる。

ええっ? ちょっと待って!

今受け取ってくれないの?

今受け取ってくれたら、一件落着になると思ったのに、なぜ?

動揺しながらも、副社長の動きに付いていこうと歩みを進ませる。そこで、ハッと緒方さんの存在を思い出した。

ひとり残される形となった緒方さんは、突然の成り行きに唖然としている。


「あの、副社長……」

「なに?」

「すみません。ちょっとだけ待ってください」


怪訝そうに動きを止めた副社長に頭を下げて、緒方さんと向き合う。緒方さんはまだ身動き出来ずにいたが、私が名前を呼ぶと我に返った顔をした。


「えっ、あ。宮坂さん、そちらに行かないと……」

「めぐみの都合を聞いて、あとで連絡しますね」

「ああ、うん。よろしく……」
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