限りない愛~甘い彼に心揺れて~
「駅まで送るよ。乗って」

「ありがとうございます」

「寒くなってきたよね」

「はい。うっかりマフラーをデスクに置き忘れてしまい、急いで駅に向かっていたんですよ」


冷たくなってきていた手をあたためるようとこすり合わせる私を副社長がじっと見るから、へらっとした感じに笑った。寒いのに忘れてしまったのが恥ずかしいから、笑ってごまかす。

車はすぐ駅に着く。また外気に触れなくては……。


「ありがとうございました」

「今日も家まで送れなくて悪いな。これ、使って」


副社長が黒を基調としたストライプ柄のマフラーを私の首に巻いてきた。私のマフラーよりもはるかに肌触りの良いそれは副社長からの優しさも加わって、体全体に暖かさがめぐる。

「ありがとうございます」とお借りして、車を降りる。遠ざかっていく車を見ながら、思い出すのはユリナさんとのことだ。

今日1日ずっと気にかかっていた。気になるなら、聞けばよかったけど、専務が言っていたように副社長から話してくれるのを待とうと思う。

本当に話してくれるのか分からなく、不安はあるけれど。巻いてもらったマフラーをぎゅっと握ってから、駅の階段をのぼった。
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