君と出会えた物語。
結局夕食の時間も話せなかった。
ご飯を食べ終えた人から自由行動なので江美と2人食堂を後にする。
私たちはお風呂の時間まで旅館内を散策しようとエレベーターに乗った。
「やっぱり屋上は行かないとだよね。」
この場所から見える夜景が綺麗と聞いて私も行ってみたかった。
「そうだね!」
ポーンっ
エレベーターを降りて外に出ると邪魔なものはなにもなくて暗い夜空の星に遠くに輝く街の光。
全部が綺麗で目を奪われる。
屋上にはベンチとかちょっとした花壇がある。
真っ暗だけど不思議と怖くない。
「…朱莉。待って、誰か居る。」
小声で私の肩を掴む江美。
ご飯を食べ終えて食堂を出た生徒は私たちの前にも沢山居たし。
屋上に誰かいてもおかしくはない。
けど、とりあえず江美の後ろを歩いてついて行く。
暗闇に目が慣れてきてだいぶ見えるようになってきた気がする。
ヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
話し声の聞こえる方を目を凝らして見ると…
「…ヒロ?」
思わず大きい声が出てしまった。
私の声に驚いて離れる2人。
そこには暗いけど見えた。
見てはいけない瞬間を。
ヒロ抱きついている浅野さん。
浅野さんを抱きしめているヒロ。
「…え、朱莉?」
ヒロの焦った声が聞こえる。
なんで焦ってるの?
違うよね…。
「えっと…こんなところでどうしたの?」
なんでいつもと変わらない感じで話しかけてくるの?
「夜景綺麗だよな。江美と2人で来たの?」
だんだん腹が立ってくる。
こんだけ暗いから見えてないとでも思ってるの。
無視してる私にヒロはどんどん近づいて来る。
「朱莉?」
私の頭にヒロが手を置いた瞬間。
私の中の何かが溢れ出した。
「触んないで。ヒロなんか…ヒロなんか、大っ嫌い!」
走ってエレベーターに飛び乗った。
ドアが閉まるまでヒロの私を呼ぶ声が何度も聞こえた。
静かになったエレベーターの中で膝から崩れ落ちる。
「な、んで…ひどいよ…。」
その場にいる勇気がなかった。
話を聞く勇気がなかった。
1人で逃げたエレベーターの中で子供みたいに泣いた。