君と出会えた物語。
「ここ座っていいかな?」
ゆっくり顔を上げて真っ直ぐヒロの目を見る。
覚悟は決めた。
大丈夫。
「うん。もう逃げないから...話、聞かせて。」
「朱莉、強くなったんだな...。」
ヒロは今にも泣きそうな顔をしている。
強いんじゃない。
強がってるの…。
強がりでもなんでもいいから今は伝えないといけない。
「ヒロのおかげだよ!」
今の私に出来る限りの精一杯の笑顔。
なのに...悲しそうな笑顔のヒロ。
「...俺、朱莉に行ってないことあったんだ。」
ヒロは少し黙り込んでまた口を開いた。
「浅野奈々とは昔付き合っていて...合宿の班が決まって久しぶりに奈々と話したんだ。初めは朱莉がいるからって2人で話したりするの拒んでたんだけど...どうしても奈々を遠ざけることが出来なかった。俺、昔たくさんあいつを傷つけてしまった責任を取りたい。」
聞きたくない...。
この後ヒロが何を言うのか分かるもん。
離れたくないよ。
...けど、そんなこと言えない。
こんなに悲しそうで、
苦しそうなヒロの顔は見たくない。
ヒロにはあの無邪気な笑顔で笑っていてほしい。
私が我慢すればまたあの笑顔で笑ってくれる?
「...うん。それで...?」
涙がこぼれ落ちないように頑張った。
大好きなヒロが決めたんだもん。
ヒロは間違えたりしない、いつも正しくいてくれる。
だから、そんなヒロが決めたことに私は何も言えない。
「奈々とやり直そうと思ってる。だから...俺と別れてほしい。」
覚悟していてもどこかで期待してたのかな。
言葉にされるとやっぱりきついかも。
ヒロはもう私を見て笑ってはくれない。
悲しそうな顔をするだけ...。
「...分かった。短い時間だったけど、幸せだった。ありがとうヒロ。」
彼女として最後にヒロにしてあげられることは罪悪感を少しでも残さないこと。
1ヶ月という短い期間だったけど、ヒロには感謝してもしきれないくらいのものをもらった。
少しぐらい恩返ししないとね。
「朱莉...本当にごめん。俺の勝手で…。」
「ううん。私、強くなったから大丈夫だよ。けど、今は1人にして欲しい...私の最後の我儘聞いてくれる?」
笑って見送りたい。
ヒロの前で泣きたくない。
「...分かった。ありがとな、朱莉。」
これが私のいっぱいいっぱい。
本当は別れたくない。
好きだよ、大好きだよ。
ヒロが見えなくなると自然と涙があふれる。
初めての恋は終わりを告げた。
たったの1ヶ月で悲しくて辛い別れ。
でも、私にとってすごく幸せな1ヶ月だった。