君と出会えた物語。
第10章*⑅
あの後の事はほとんど覚えていない。
ただ立ってるだけでも涙がこぼれそうになるけど…。
ヒロにも友達にも心配させたくなくて無理矢理笑い続けた。
聞き分けのいい女でいるって決めたのは私だから。
そしてすぐに夏休みになった事が私にとって何よりの救い。
お母様は私が合宿から帰って来る前に急に休みを取って海外に行ってしまって。
ばあやは家族との時間の為お休み。
夏休みは今のところ家にずっと1人。
始めのうちは無理に笑わなくて済むから1人が楽で部屋にずっと引きこもってたけど、ここ数日家の広さのせいか寂しさを感じる時がある…。
テレビを観ても、漫画を読んでも、何をしても満たされない。
みんな何してるんだろ…
ピーンポーンっ
「はぁーい。」
オートロックの門のボタンを押してリビングから玄関まで走った。
ガチャ
「下田さんのお宅でしょうか?」
そこには立っていたのはふわふわした長い髪に綺麗な顔立ちの女の人。
「そうですけど…。」
「娘さんですか?今、お母さんはご在宅ですか?」
「はい。今は居ないですけど…母になにか用事でしたか?」
「…えっと。お母さんが帰られたらこれと電話お待ちしてますとお伝え下さい。」
そう言って渡された手紙を受け取った。
なんか怪しいというか…不思議な人。
部屋に戻りお母様に電話をかけた。
プルルルプルルル…
「もしもし朱莉?どうしたの?」
「お母様あのね、今女の人が来てお母様に手紙と電話待ってるって伝えて欲しいって言われて…。いつそっちから帰って来るの?」
お母様の向こうに聞こえる賑やかな音。
何処に居るの…。
「分かったわ。ありがとう。うーん…帰るのはもう少しかかりそう、ごめんね。」
「そう。分かった!気をつけてね。」
早く帰ってきてほしい。
1人にはこの家は大きすぎるよ。
毎年夏休みの間、誰もいない事に初めて寂しさをおぼえた。