蜜月は始まらない
「実はうちもこんなことが……って事情を話したら、ゆきのさんすごくあんたのこと心配してくださって。それからまあ、いろいろ話してるうちに『じゃあお互いの子ども引き合わせてみる?』ってなったの」

「いや待って、おかしいでしょそれは……」



あんまりな展開に脱力する。本人たちがいないところで、よくもまあそこまで話が飛躍したものだ。

いや、いないからこそ変にまとまってしまったのか……。


柊 錫也くん。私と同じく今年29歳になる、高校3年時一緒のクラスだった男性だ。

学生時代から全国レベルのキャッチャーとしてその界隈では名が通っていた彼は、周囲の予想を裏切ることなくドラフト上位指名を受け、都内の私立大学卒業後にプロ野球選手の仲間入りを果たした。プロ入り7年目になる今では、リーグ内Aクラス常連である球団・東都ウィングスの正捕手の座を勝ち取っている。

そんな華々しい経歴はもちろん、彼を語るうえで必ずといっていいほど話題に上るのはその見目の良さだ。

すっきりとした切れ長の瞳に、高い鼻梁、薄めの唇。アスリートらしい、バランスよく鍛え上げられた身長190cmの体躯にギリシャ彫刻のように整った美しい小顔が鎮座していれば、それはもう当然人目を引くだろう。

さらにはその恵まれた才能や外見に驕ることなく、性格もクールでひたすらストイックとくれば、老若男女問わずファンになる人は多い。……と、いつか彼のことを特集したドキュメンタリー番組の中でナレーターが言っていたのを覚えている。

つまり。今現在プロ野球界の押しも押されもせぬスター選手である柊くんと冴えない一般ピープルな私じゃ、お見合いだなんてそんなおこがましいこと許されないと思うんですけど! あらゆる方面から!!
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