蜜月は始まらない
「でももうすぐ、花倉も“柊”だ」



どこかうれしそうに言って、柔らかく微笑んだ彼。

破壊力抜群のセリフと微笑みのタッグをまともに受け、私は固まる。

動けずにいる間にも、どうしてかその端整な顔が近づいてきて──……唇が、重なった。



「……ッ」



真一文字に結んだ口の奥で、息を飲んだ。

驚きに見開いた瞳に、まぶたを下ろした彼の顔がぼやけて映る。

すでに歯を磨いたのかミントと、それからシャンプーの香りがふわりと届いた。

待って。待って待って。

今、私、錫也くんとキスしてる?

状況を理解するのとほぼ同時、柔らかくてあたたかいものに唇をなぞられビクリと震えた。

彼の、舌だ。私が動揺している間にあっさりそれは隙間を割って、口内へと侵入してきた。

たまらずきつく目を閉じる。身を引こうとしても、いつの間にか後頭部に片手を回されていてびくともしない。



「ん……っんぅ、」



歯列をなぞられる。舌が絡む。

息つく間もない激しくていやらしいキスに、頭がぼうっとしてきた。

けれどふと、目の前の人物が動きを止める。



「……まちがえた」
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