蜜月は始まらない
#5.サプライズ・ゲーム


「あっ、いた! おーい花倉さーん!」



土曜日のお昼時。
どこからか聞き慣れた声が届いて、手もとのスマホに落としていた視線を上げる。

声の主は、待ち人である根本さんだ。
彼女は私がいるバス停前のベンチに向かって、数十メートル離れた場所から笑顔で駆け寄って来てくれる。



「根本さん、こんにちは」

「こんにちはー! いやあなんか新鮮ですねこういうの! 仕事の後にごはんは行ったことあったけど、わざわざ休みの日にこうやって会うこと今までなかったですもんね~」

「たしかに、そうだよね。今日は来てくれてありがとう」



スマホをショルダーバッグにしまってから、私は改めてお礼を伝えた。

すると傍らに立つ根本さんが「やだなー!」と言って、ブンブンと自分の片手を振る。



「別にそんなかしこまらなくていいですってば! 私も野球場行ってみたかったんでラッキーでしたから~」



明るくそう話す彼女に、こちらも自然と元気が伝染するようだ。

つられて笑みをこぼしながら、うなずいた。



「うん。それじゃあ、今日はよろしくね」

「はーい! こちらこそです!」
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