蜜月は始まらない
「花倉さん花倉さん、見てくださいコレ」

「ん?」



バスの中ほどにある席で隣に座る根本さんが、私の腕をつつきながら話しかけてきた。

持っていた大ぶりのトートバッグの口を開き、中身を見せてくれる。



「ウィングスの応援グッズです~! ガチ勢ファンの友達に、いろいろ借りてきちゃいました」



覗き込んだそこには、たしかに球団のロゴ入りのグッズがいくつか入っていた。

レプリカユニフォームに、フラッグに、ツインスティック……あ、試合途中と終了後に飛ばすロケット風船を膨らませるための、ハンドポンプまである。



「すごいね、こんなにたくさん!」

「せっかくだし、形から入ろうと思って。持ってないって言ってたんで、ユニフォームは花倉さんの分もありますよ!」



ガサゴソとビニールの擦れる音をたてながらバッグを探った彼女が、取り出した1着を「ハイ!」といい笑顔で差し出してくれた。



「あ、ありがとう……」



持ち主の几帳面さが垣間見える、綺麗に畳んで袋に入れられたユニフォーム。
たしかこのデザインは昨シーズンの何試合かだけ、期間限定で選手たちが着ていたものだ。


そっと袋を開けて中身を広げ、何気なく背面を確認すれば──そこには背番号【22】と、【HIIRAGI】の文字があった。

反射的に、パッと勢いよく根本さんに顔を向ける。
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