蜜月は始まらない
「えっこれ……」
「当然、花倉さんはそれ着ますよね! 私のは球団マスコットのウィンドくんなんですよ~」
ニコニコ笑顔で話しながら、自分が着る分をバッグから引っ張り出している根本さん。
そんな彼女から、手もとのユニフォームへとまた視線を戻す。
いや、うん……たしかにここは、錫也くんの背番号のものを着るのが普通なのかもしれないけれど。
でもなんか、いざ彼の名前が入ったこれを着るとなると……なんとも言えない羞恥心のようなものがわき起こって、ムズムズしてしまう。
ユニフォームを見つめたまま固まる私に気づき、根本さんが生あたたかい眼差しを向けてきた。
「花倉さん、何照れてんですか……どうせもうすぐ、あなたも“柊”になるんでしょ?」
「それは……まあ、あの、そうなんだけど」
「何なんですかもう、花倉さんめちゃくちゃピュアピュアですね?! 純愛か!!」
「じゅ、純愛……」
彼女が放ったセリフの一部を、頭の中でも反芻する。
純愛……愛?
愛なんて、私たちの間にはない。私が一方的に、意識してしまっているだけだ。
「今からこんなんとは……入籍して蜜月の花倉さん、うれし恥ずかしで名前通りお花飛ばしまくってるんじゃないですか?? 職場でそれは勘弁してくださいよー! もー!」
ワッと両手で顔を覆って、根本さんはなんだか嘆いている。
私はふっと、こっそり苦く笑った。
「……それは、大丈夫」
蜜月なんて。
そんな甘ったるいものは、始まらないから。
「当然、花倉さんはそれ着ますよね! 私のは球団マスコットのウィンドくんなんですよ~」
ニコニコ笑顔で話しながら、自分が着る分をバッグから引っ張り出している根本さん。
そんな彼女から、手もとのユニフォームへとまた視線を戻す。
いや、うん……たしかにここは、錫也くんの背番号のものを着るのが普通なのかもしれないけれど。
でもなんか、いざ彼の名前が入ったこれを着るとなると……なんとも言えない羞恥心のようなものがわき起こって、ムズムズしてしまう。
ユニフォームを見つめたまま固まる私に気づき、根本さんが生あたたかい眼差しを向けてきた。
「花倉さん、何照れてんですか……どうせもうすぐ、あなたも“柊”になるんでしょ?」
「それは……まあ、あの、そうなんだけど」
「何なんですかもう、花倉さんめちゃくちゃピュアピュアですね?! 純愛か!!」
「じゅ、純愛……」
彼女が放ったセリフの一部を、頭の中でも反芻する。
純愛……愛?
愛なんて、私たちの間にはない。私が一方的に、意識してしまっているだけだ。
「今からこんなんとは……入籍して蜜月の花倉さん、うれし恥ずかしで名前通りお花飛ばしまくってるんじゃないですか?? 職場でそれは勘弁してくださいよー! もー!」
ワッと両手で顔を覆って、根本さんはなんだか嘆いている。
私はふっと、こっそり苦く笑った。
「……それは、大丈夫」
蜜月なんて。
そんな甘ったるいものは、始まらないから。