蜜月は始まらない
「だいたい、人気真っ只中で引く手あまた結婚相手なんてよりどりみどり選び放題のプロ野球選手が、こんな普通のアラサー女とお見合いなんかするわけないでしょ!」



美人女子アナとか、有名モデルとか、かわいいアイドルタレントとか! 柊くんクラスの有名人なら、相手なんか身近にいくらでもいるはずだ。

語気を荒げ一気に言い放った私は、興奮してしまっている自分を落ち着かせるようにはーっと深く息を吐いた。

そして必死なこちらの言い分を聞いても、お母さんはといえばののほんとしたものだ。



「馬鹿ね、段取りできてるからあんたにお見合い“しなさいね”って言ってるの。錫也くんにはゆきのさんからいきさつ全部伝えたうえで、もうちゃんと了承の返事もらってるのよ」

「……え?」



またもや、驚きに硬直。柊くんは……このお見合いを、了承してる?

私が相手だって、わかってるのに?



「あとはもう、華乃の返事次第なの。というか、引きずってでも連れてくからね? こんないいお話、そうそうあるわけないんだから!」



『そうそう』どころか、こんなの普通に平凡に生きてたら限りなくゼロに近い確率だと思う。

なんだか目眩を覚えた気がした私は、両肘をテーブルにつけながらその手のひらで顔の上半分を覆いうなだれた。ついでに、深いため息も吐き出す。

……どうして。よりによって、柊くんなんだろう。

なんでこんな、今さら……過去の自分が必死に気持ちを隠し、時間をかけながらも忘れようと努力した──初恋の人と、お見合いなんて。
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