蜜月は始まらない
「いや~……惜しかったですねぇ、ウィングス」

「うん、そうだねぇ」



試合結果のアナウンスが流れる球場内。

バッターボックスが良く見える上段の指定席に隣り合って座る私たちの声には、自然と悔しさが滲む。

結果としてこの試合、東都ウィングスは負けてしまった。

けれど4点をリードされていた9回裏に怒涛の攻撃を見せ、あと1点差というところまで追い詰めたのだ。

反撃の狼煙を上げたのは、この回トップバッターだった錫也くんだった。

彼が放ったソロホームランが、ウィングス側の攻めムードを一気に盛り立てた気がする。



「結果的には負けちゃったけど、プロ野球観戦おもしろかったなー! 応援歌燃えますね!!」



応援グッズのツインスティックを持ったまま笑う根本さんのセリフに、私もコクコクとうなずいた。

やっぱり、テレビで観ているのとは全然違う。

ドームの広さも、選手たちのプレーも、両チームのファンたちによる応援も……実際に自分の肌で感じて、観戦中ずっとワクワクが止まらなかった。



「私、自分でグッズ買って帰ろうかなあ」

「お! いいですねぇ買いましょ買いましょー! そんでまた、一緒に観に来ましょー!!」

「ふふっ、よろこんで!」



私の言葉に全力でノッてくれた彼女に、思わず笑顔になる。

よかった。一緒に来てくれる人がいるとわかっていれば、新しい趣味への一歩を踏み出しやすい。
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